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「祖母は、夜になるといつも、ぼくを家の外に連れ出したよ。『善ちゃん、ほら、よく見てごらんなさい』って言って、夜空を指差した。いまはもう無くなっちゃったけど、その頃、祖母の家は郊外の山の中にあったんだ。周りには家がなくて、だんだんと暗闇に目が慣れてくると、びっくりするくらいたくさんの星が見えた。そうだね、ちょうど今ぼくたちに見えている、これくらいの星が見えた」
少年はそう言うとふっつりと黙り込んで、生い茂る木々の、幾重にも重なりあった葉陰からのぞいて見える、うっすらとけぶった天の川を見上げた。
銀砂をまいたような星空を、和美も黙って仰いだ。都会の夜空には見たことのない星々があった。
「『あれがお父さんの星、その隣にあるのがお母さんの星。遠いところにいても、ああして、いつも善ちゃんを見守っているのよ』って。もちろん、あの頃は信じてたよ。だから本当に、毎日のように夜空を見てた。曇りの日とか雨の日は、雲の向こうが恋しかった」
そう呟くように言って、夜空の一点を見つめていた少年だったが、いくらかの沈黙の後に、その眉根は、くっと苦しげに歪んだ。
「祖母がおばさんに話しているのを聞いてしまった後も、こいつを持ち歩いて、父さんと母さんが買ってくれたんだって、ずっと信じてるふりをしてたよ。ぼくは何も聞かなかったんだって、何も知らないんだって、何度も言い聞かせた。だけど、知ってしまったら、もう」
後戻りはできないじゃないか。
そう呟いて、少年の喉はこくりと小さな音をたてた。
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