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和美はもとから体力と運動神経に自信のある同級生たちと比べても人一倍秀でているほうではあったが、今相手にしているのは自分と同じ年の男子生徒の身体だった。
繋がっているのは一本の腕のみ。しかも不安定な体勢だ。少年のほんの僅かの身じろぎが、ギシギシと酷く堪える。
和美の腕が悲鳴をあげていた。
少年の手を強く掴み寄せようとすればするほど、いったい何の仕打ちだというのか、互いの手のひらは油を滲ませたようにいっそう滑りやすくなった。
もうだめだ。
和美の胸が、全身が、激しく動悸を打っていた。
少年の身体を引き上げることはおろか、こうして繋ぎ止めておくことさえ、もう後いくらも保たない。
こんな時なのに、いや、こんな時だからなのか、樹々を渡る鳥のさえずりや葉を鳴らす風の音が、いやに耳につく。だが、それらの中には、助けを求めることができそうな気配は微塵も感じられなかった。
胸の内に、泣きだしたい気持ちが膨れあがっていく。
このまま少年は、少年は、そして自分は、どうなるのだろう。
和美の胸のすぐ下から鋭い悲鳴があがった。
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