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 肩に鈍くて重い衝撃が走った。  少年の手が、真っ白になって木の根を食い締めていた左手が、ズルズルと滑り落ちていくところだった。 「い、いやだぁ……っ」  必死の形相の少年の食いしばった歯の隙間から、小さく掠れた縋るような声が聞こえた。  和美は凍りついた。  一瞬後には、少年はこの手を離れるだろう。  小さくなって、あの、「早く落ちて来い」と腕を伸べて待ち構えているようにさえ見える、下界の樹々の中に飲み込まれていくのだろう。  そしてこのまま少年の手を離さなければ、自分も諸共に。  と思った時にはすでに、和美の身体は少年とともに空中を落下していくところだった。視界の端に少年のシャツの白さが見えた。  世界が大きく回転していた。空の白さも樹々の色も土の黒さも渾然と混ざり合って、どれが何であると分かつこともできない。目を閉じることもできない和美の脳裏に、ただぼんやりとした靄のような思考だけが流れていった。  終わりというのは、こんなにも唐突にやってくるものなんだろうか。  両親に見守られることもなしに。  自分の終わりなのに。  自分の?  これがほんとうに、私の、本当の終わりだというの?   どこからか自分を見下ろしている妹の顔を、それでいて不思議と霧がかったように表情のところだけはわからない妹の顔を、和美は白い世界の中で見たと思った。    
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