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     先ほどから視界の端にチラチラと映る一つの影を、和美はため息をつきたい気持ちで見ていた。 「見て見て。橘さん、すごい。あんなに軽々とやってる。やっぱり違うんだね。すごいよねぇ」  周囲の女子や男子から飛んでくる視線の数々、賛辞の声、いつもならば気になるはずのそれらが今はほとんど耳に入らない。  和美には気になっている光景があった。  防衛学院に入学した生徒はまず基礎体力作りから始めることになる。  持久力を鍛えるための持久走や筋力をつけるための筋トレなどが正式にカリキュラムに組み込まれていて、また生徒たちの能力データを取る意図もあってか、ひと月に一度は運動能力記録会があるほどだ。  いずれにしろ相当なボリュームがあるために、和美のように元から腕に覚えがある生徒にとってはまだるっこしい授業だが、人並みの運動経験しかない生徒にとってはかなり厳しいものになる。  これは東都防衛学院中等部が様々な方面での未来の才能を欲し、志望者に対し広く門戸を開いていることの証でもあるが、当然、1年生の間、生徒たちの基礎体力の差は著しい。
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