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「ねえウリや、ちょっと、向こうの山に住んでいるおじさんのところまでおつかいを頼まれてくれないかい。道中、危険もあるかもしれないけど」
小さくて平和な村に退屈さを覚えていたウリは、この依頼に一も二もなくうなずいた。
去年お嫁さんをもらったおじさんのところには、今頃、子どもが生まれているはずだった。母さんはお嫁さんのための上着と、子ども用の前掛けを用意していた。
土産物を詰めたリュックを背負ったウリのもとに、妹のひとりが駆け寄った。
「ねえ、おつかいに行くんでしょ。あたしも行く」
ミツはまだ小さい、おてんばな少女だった。ミツを連れて山を越えるのは難しいかもしれない。兄は説得を試みる。
「あのね、ずっと遠くまで行くんだよ。足が痛くなるし、ひょっとしたら途中で大きな動物に食べられちゃうかもしれないんだよ」
「だったら心配いらないわ。あたしがいなくなったって、母さんは困らないもの」
「そんなことない。困るよ」
「お兄ちゃんがひとりで行ったって、食べられる危険はあるでしょう。お兄ちゃんがいなくなった方が、あたしがいなくなるよりずっと困るのに」
「僕ひとりでなら逃げられても、お前がいたら逃げられないかもしれない」
「かまわないわ。あたし、囮になってあげる。怖い動物に会ったら、あたしが食べられている間にお兄ちゃんだけ逃げればいいのよ」
ミツはさっぱりと言い切った。芯の強い顔つきを見て、ウリは悩ましく溜息をつく。
会話を聞いていた母さんは笑った。
「連れて行っておあげ。その子は一番父さんに似てるんだから」
今は亡き父親は、風変わりで信念を曲げないひとだった。こうと決めたら、何を犠牲にしても貫く以外はないと信じている。
ウリは母親の言に従った。
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