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ハチ
三日目になり、目的地もだいぶ近づいた。ミツは当初の勢いこそ消えていたものの、弱音一つ吐かなかった。やっぱり父さんの子だと、兄は内心で目を細める。
「喉乾いたわ。少し休まない?」
軽く足を引きずりながらも気丈に言う妹の言葉に、ウリは快く応じた。
大きな木の下に腰を下ろすと、よほど疲れていたらしく、ミツはすぐに眠り込んでしまった。
小雨が降っていた。ウリは見るともなし、上の方を見た。
大きなクモの巣があった。そこに一匹のハチがかかっている。
ハチはまだ生きていた。逃げようともがくほどに糸がからむ。巣の主は、少し離れた場所からその光景を楽しそうに見ている。
ハチが叫んだ。
「旅の方! どうか私を助けてください。お礼は必ずしますから!」
そうは言われても、ハチを助ければクモにすまない。考えてから叫び返す。
「僕たちが危険な目にあったときには駆け付けてくれますか?」
「もちろん! きっと、お約束します。だから助けて!」
いざというときにハチの小さな体があてになるとも思えない。だが訴えを無視するのも心苦しく、ウリは木を上った。詫びつつクモの巣の一端を壊す。
自由になったハチは何度かウリの周りを飛んで、どこかへ逃げて行った。
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