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速さでなら獣の方が勝っている。しかしウリは小さく俊敏な体をいかしてちょろちょろと逃げ回る。獣はなかなか狙いを定めることができない。
ウリに抱えられながらミツは、うさぎにもらったサメの歯を取り出した。勝ち気にも追手を睨みつける。
行く手を石に塞がれ、方向転換しようとウリがスピードを落とす。涎が糸を引く獰猛な牙が間近に迫る。
「跳んで!」
ミツが叫んだ。
身軽な跳躍を見せたウリは見事、獣の鼻の上に着地した。
「えい!」
大きな的を目がけてミツが走る。体ごと、サメの歯を光る眼球にぶつけた。
思いがけず痛手を食らい、獣はその大きな体をのけ反らせる。地響きがするような太い咆哮があがった。驚いた鳥たちが、派手な羽音をさせて一斉に飛び立つ。
ふたりは地面に転がり落ちた。幸い、軽い体のおかげでけがはない。ウリは再び妹を抱えて走り出した。
獣は怒っていた。片方の目を閉じたまま、復讐の相手を探してより激しく唸る。
逃げ込もうとした倒木が、一瞬早く踏み潰された。迷う暇もなく向きを変えて跳ぶ。
意図せず着地したのは深い水たまりだった。軽く水を飲んでむせる。思うように走れない。獣の声が頭上で雷のように轟く。
ウリの脳裏に一瞬、三日前の妹の言葉が蘇った。
『あたし、囮になってあげる』
ばかな。
打ち消すより早く、妹の腕をしっかとつかんだ。その妹が何かを叫ぶ。
すぐ背後から獣の生臭い息がかかった。踏んだ地面が苔で滑る。
もうだめだ。
終わりを覚悟したウリは妹を両腕で抱いた。
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