遭遇

2/4
前へ
/10ページ
次へ
 速さでなら獣の方が勝っている。しかしウリは小さく俊敏な体をいかしてちょろちょろと逃げ回る。獣はなかなか狙いを定めることができない。  ウリに抱えられながらミツは、うさぎにもらったサメの歯を取り出した。勝ち気にも追手を睨みつける。  行く手を石に塞がれ、方向転換しようとウリがスピードを落とす。涎が糸を引く獰猛な牙が間近に迫る。 「跳んで!」  ミツが叫んだ。  身軽な跳躍を見せたウリは見事、獣の鼻の上に着地した。 「えい!」  大きな的を目がけてミツが走る。体ごと、サメの歯を光る眼球にぶつけた。  思いがけず痛手を食らい、獣はその大きな体をのけ反らせる。地響きがするような太い咆哮があがった。驚いた鳥たちが、派手な羽音をさせて一斉に飛び立つ。  ふたりは地面に転がり落ちた。幸い、軽い体のおかげでけがはない。ウリは再び妹を抱えて走り出した。  獣は怒っていた。片方の目を閉じたまま、復讐の相手を探してより激しく唸る。  逃げ込もうとした倒木が、一瞬早く踏み潰された。迷う暇もなく向きを変えて跳ぶ。  意図せず着地したのは深い水たまりだった。軽く水を飲んでむせる。思うように走れない。獣の声が頭上で雷のように轟く。  ウリの脳裏に一瞬、三日前の妹の言葉が蘇った。 『あたし、囮になってあげる』  ばかな。  打ち消すより早く、妹の腕をしっかとつかんだ。その妹が何かを叫ぶ。  すぐ背後から獣の生臭い息がかかった。踏んだ地面が苔で滑る。  もうだめだ。  終わりを覚悟したウリは妹を両腕で抱いた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加