第一章

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顔を上げたメイドは、間近で見る彼━━マルセイユの端正な姿にいくらか赤くなりながら、驚いた表情を浮かべて答えた。 「三階のエルリーゼ様のご自室、胡蝶蘭の間にお運びして、お休みいただいております。  ‥‥ですが、もう誰かの知らせが行きましたでしょうか?  ずいぶんお早いお戻り‥‥」 「ああ、キミは新人なんだね?  何も知らないキミが驚くのも無理はない。  知らせはたしかにまだ受けていないけれども、僕の聡明さにかかれば、その程度のことを知るぐらいは雑作もないのだよ」 すらりと伸びた長身から発される声は、どこか人を小馬鹿にしたような、からかいを含んだ雰囲気を漂わせている。 そんな雰囲気の理由のひとつは、彼の言葉づかいが舞台上の役者のように、芝居がかった台詞じみているからだろう。 そんな台詞じみた物言いさえ、彼の容姿には嫌味なくらい似合うのも、理由のひとつかもしれない。 だがそれらも、年頃の娘にとっては十分に男性的な魅力であることを、さらに赤くなったメイドの顔が証明していた。 赤らめた顔を恥じいるように、メイドは少しばかりうつむいた。 しかしながら彼は、自分の魅力を十分すぎるほど理解し、自負し、その利点を心得てすらいる。 顔を赤らめて自分を見つめる女性たちの熱い視線にも、日常的に慣れきっていたため、自信に満ちた笑みを浮かべただけだった。 「また無理をして倒れたんだろう?  本当に困ったお嬢さんだね、エルは」 僕は多忙なんだけどね、と続けながら、実直に業務をこなそうとするメイドを下がらせる。 マルセイユはそのまま、玄関ホール正面の緩やかなアーチを描く階段に向かって、緋の絨毯を踏みしめていった。
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