第二章

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「友達と技を競い合って、ケガしたりさせたりするんだと思います」 「うん、確かにそういう失敗も多い。  ほかは?」 ばらばらと挙がりだした手を、マルセイユは順に当てていく。 「まだ習ってない術を勝手に使って、怒られそう」 「おや、そういう経験があるのかい?  失敗しなければ事故にはならないなどと、浅はかな考えで実践しないように。  温厚なボクはともかく、ほかの先生方にはこってり絞られるよ」 「げっ、マジですか‥‥」 クスクスと笑う声が、お調子者のクラスメイトに贈られる。 「創ってはいけないものを創ってしまう、とか。  金とか、ホムンクルスとか?」 「錬金術かい?  賢者の石は現代の研究では架空のものとされているから、キミがそれを成し遂げたら大ニュースになるかもしれないね」 次々に手を挙げた学生が発言していくが、彼は一向に「それが正解だ」とは言う気配がない。 答えのひとつひとつに、コメントを返すばかりの態度に、彼女は少々じれったさを感じてしまう。 正解は何なのだろう。 焦らされるのが嫌いなエルリーゼが、机に頬杖をつきかけた頃。 彼は学生たちに挙げた手を下ろすように、身振りだけで指示すると、なごやかだったクラスの空気をぴんと引き締めた。 「貴重な意見、ありがとう。  キミたちが述べたような失敗や間違いも、十分起こりうることだ。覚えておく価値がある。  けれども、正解は別にある‥‥万が一にも起こってほしくはないけれど、キミたちの内の誰かは、その “取り返しのつかない” 事故を起こしてしまうかもしれない」
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