第二章

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  この時自身の中に湧いた、明かりの射さぬ静まり返った地底湖のイメージ。 その場所を、彼女はまるでほんとうにどこかに存在する景色であるかのように感じていた。 明かりは手元の小さなランタンだけ。 彼女を乗せた小舟は、するりと音もなく湖の上にすべり出る。 照らす明かりは、知恵と分別の灯火。 魔力の源泉である湖から、水を汲んで利用する。それが、魔術を使うということ。 同じ水を汲み上げるのでも、コップを使うのか、桶で汲むのか、はたまた樽を持ち出すのかによって、汲める水の量と効率は変わってくる。 汲み上げる容器はただ闇雲に大きければいいというものでもない、水を飲むために汲むのならコップで充分なのだから。 用途に合わせた適切な道具を使って目的を達成する、これが魔術の技術に当たる部分。 後天的な努力がもっとも成果に結びつきやすいところでもある。 逆にいうと、後からの努力なしには身につかないということ‥‥。 身の程をわきまえず、自身の力を過信して無理にも高位の術に手を出そうとすれば。 堰を切ったように魔力は流れ出てゆき、泉は枯れ果ててしまう。 導影によって導かれたイメージが、エルリーゼの乗る頼りない小舟を、突如ぽかりと口を開けた暗闇の向こうへ連れ去ろうとする。 あれほど静まりかえっていた地下洞窟の中に、ゴウッという大量の水が流れ出てゆく音が響き、勢いづいた流れが小舟ごと彼女を乱暴に揺さぶった。
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