第二章

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    ━━おかしい‥‥。 こんなにもリアルな導影術なんて。 エルリーゼの心に焦りが沸き立つ。 イメージに過ぎないはずの地底湖。現実に自分が存在(い)るのは学院の教室の中のはずなのに。 現実と幻惑が交じり合うように、むしろ幻惑に蝕まれていくかのように、現実における自分の感覚が薄くなる。 暗い、底の見えない水の色。 荒れた水面から飛び散る水飛沫。 導影は、学院の教師が学生たちにイメージを伴う学習をさせるためによく用いる術のひとつだ。 誰にでも簡単に使える、というほど容易い術ではないにしても、学院の教師になるような者であれば、そうそう事故など起こるものではない。 わかりやすく、かつ現実味を帯びた導影の巧さに加え、引き際の良さも誰に引けを取ることもないマルセイユの術なのに。 どんなに “現実の自分” に意識を戻そうと足掻いても、かえって彼女を取り巻く闇は深くなるばかり。 このまま‥‥もしもこのまま、このあふれ出る魔力という水に流され続けたとしたら、行き着く先は何処なのだろう‥‥?
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