第二章

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    『‥‥‥‥、先生の教え子でその事故を起こした人は‥‥、‥‥』 『そうだね‥‥正確に言えば教え子ではなかったけれど、悲しい事故を起こしてしまった友人なら、いたよ』 不明瞭になっていく世界の中で。 身体の目と耳、意識の視界と聴覚がいつしか融合(とけ)合って色を無くしてゆく中で。 彼の声だけが、澄んだ鈴の音色のように確かな存在感をもって響いた。 マルセイユ。 マルセイユ‥‥! ぷつり、となにかが途切れる感触とともに、視界一面を淀んだ曇り空のような色彩が覆う。 支えをなくした身体がゆっくりと宙に投げ出される感覚が、彼女の意識の捉えた最後だった。 その背を受け止める温度と 何処からか投げかけられた ”忘れなさい“ の言葉が 彼女の中に滑り込んだのかどうか‥‥。 それはまだ、誰も知らない。
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