第三章

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  特別教室のいくつかにだけ敷かれた薄いカーペットが靴音を消したため、マルセイユはほとんど音を立てずに彼女の眠るベッドをのぞき込んだ。 エルリーゼの呼吸はおだやかだし、寝顔に苦痛の影などもない。  にも関わらず、ほとんど身じろぎもせずに眠り続ける彼女の容態について、保健医は 「身体的な異常は見あたらない。多分、大丈夫だろ。  よほど疲れでも溜まっていたか‥‥でなければお前の術の影響だ。  自分で責任を取ることだな」 と言い放っただけだった。 保健医にしては無責任な言い草だが、これはおそらくマルセイユとの相性の悪さを態度に表しただけの問題だろう。 面倒見がよく優しい、格好いいと、あれでも女子学生の間では評判の良い男性教諭なのだ。 その保健医の姿は今ここにはない。 付き添い人がいることに安心してか、席を外しているようだ。 「先生‥‥リーゼは、」 『大丈夫なんでしょうか』と言葉を続けたかったようだが、レナは言葉を切ったままその先を言いよどんだ。 すでにその台詞を何度も口にしていることで、ためらいが生まれたのだろう。 「エルリーゼならば大丈夫だよ。  どこかが悪い、というわけではないんだ。  ただちょっと、疲れが溜まっていただけだろう。  こう見えてもエルリーゼは、頑張り屋さんなところがあるからね」 片目をつむってウィンクしてみせると、レナは多少安心できたのかくすり、と笑いをこぼして「はい」と答えた。
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