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「レナ」
ベッド脇にもうひとつある椅子に腰かけることはせずに、横から軽くレナを覗き込むように身をかがませて、やわらかく声をかける。
「エルリーゼを見ていてくれてありがとう。
だけど、お家からキミを迎えに来た人間が門の前で途方に暮れていたよ?」
「あ‥‥」
顔を上げたレナは、ほんの少し困ったような顔をして、マルセイユを見上げた。
良家の子女と呼んで差し支えないような、おとなしく清楚な雰囲気を持つレナだが、貴族の出ではない。
レナ・リィンドール。
父親の代と、その前の代の二代で財を築いた有名な商人の一人娘だ。
娘を少々過保護気味に愛していると見えて、寄宿舎には入れずにわざわざこの分校にほど近いところに別に家を構え、毎日そこから送り迎えをさせている。
「えっと、でも‥‥。先生はまだお仕事があるのじゃ‥‥?」
「大丈夫だよ。
もう適当に切り上げてきたし、たとえ途中でもボクなら抜けてくるぐらいワケはないからね!
エルリーゼなら、後は家でゆっくり休ませるから。
あまり遅くなるとご家族がキミを心配してしまうからね、そろそろ帰ってあげるといい」
大丈夫だと安心させるように笑うと、レナも帰る決心がついたように笑い返した。
鞄を手にしてぺこりとお辞儀するレナを保健室の戸口で見送って、マルセイユは彼女のベッドまで引き返し脇の椅子に腰かける。
柳眉と呼んでもよいほど形の整った、けれども意志薄弱に見えない絶妙のラインを描く眉を、真剣な様に顰めて。
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