第三章

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━━ 何が、あった? エルリーゼの枕元に椅子を近づけて座ったマルセイユは、彼女の額に手を伸ばす。 眠るエルリーゼに変化はない。 枕の上に広がった、いささか強(こわ)くも見える鈍灰色の直毛と、その下のシーツの白さとの対比がなぜか冷たさを感じさせる。 彼の用いた導影の術に問題はなかった。 授業中に起こった異変の事後処理も、無論教師の仕事である。 しかし、彼女と同じ教室内で同じように術を受けたクラスメイトたちには、誰ひとり不調や異常を訴える者はいなかった。 加えて、術式 ━━ 術を発動させるために必要となるキーワードを数式のように組み合わせたもので、市井の間では呪文と呼ばれることもあるが、例の授業で使用したそれにも、問題は見当たらず。 さらに、第三者的な判断でも問題はなかったとされた。 魔術には、術を使用した後に残る痕跡のようなものがある。 その痕跡は術の種類によって異なり、観測した際にそれぞれに固有の軌道を描くのだが、それらを総称して術跡といった。 授業中に学生が倒れたのだ、当然倒れる直前の行動を調べるため、彼の使用した導影の術跡は第三者によって計測され、結果異常は見つからなかった。
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