第三章

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  寝返りひとつ打たない彼女の眠りは相当深いのだろう。 静かな寝顔に、あのとき彼女の中に起こった出来事の内実を窺えるような表情は浮かんでいない。 エルリーゼには特段これといった持病はないし、突然倒れたのはやはり、術が彼女に何らかの影響を与えたためだと考えられるが‥‥。 術の側に問題がないのであれば、術を受けた彼女自身に何らかの問題があったのだろう。 マルセイユはかざした手のひらに微弱な魔力をとどめる。 まるで熱があるかないかを額に手を当てて測る時のように、そっと手のひらに感じる彼女のオーラに意識を集中させた。 実を言えば先ほどレナに言った言葉は、間違いでもないけれども正しくもない。 彼が仕事を抜け出してきたのは彼女をこのまま連れ帰るためではなく、彼女自身から原因究明の手がかりを探すためなのだ。 魔術とは発動する側はもちろんのこと、術の種類にもよるが受ける側のコンディションにも術の出来を左右されるものである。 導影は人体に大きな影響を及ぼすような術ではないから、対象の気を失わせるような効果はない。 大きな怪我や明らかな病変でもなく、使用した術にも問題点が見当たらなかったため、一通りの事務処理が済むとこの件は終わったものと見なされてはいるのであるが‥‥。 ━━ ”マルセイユ‥‥!“ 意識を失う寸前の彼女の、”声“。 それがなぜだか、気にかかる。
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