第三章

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水‥‥。 暗い水面。それはかすかに揺れるばかりで、流れと呼べるほどの流れはない。 ややあって、ぽっかりと開けた洞窟のイメージが流れ込んできた。 地底湖。これが、あの時彼女が視ていた情景に違いない。 岸部も天井も見えない地底湖の真ん中に、ぽつり取り残されたように浮かぶ小さな舟。 舟と呼ぶよりも、池や小さな湖によくある手漕ぎのボートといった方が正しいような体(てい)だ。 手元の小さな明かりだけが光源では、周りの様子を窺おうにも、ほんの手先、足先までしか見えはしない。 自身の魔力の源泉をイメージしたときに、このような光景をイメージする者はめずらしい。 たいていの場合は、もっと明るく一般的な水場をイメージするものだ。 見えないものに仮初めの印象を与えているに過ぎないのだから、どんなイメージをしようとそのこと自体は問題にならない。 どこかに引っかかりをおぼえるような気はしたが、その間に彼女は魔力の水を掬おうとボートの縁から手を伸ばした。 白く際立つ腕は水を掬うというよりも、手を浸すように暗い水をかき分ける。
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