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━━ ”夏“。
水を掬うために伸ばしているはずの、黒く揺れる水面に浸された彼女の腕。
その腕が、逆に底の見えぬ闇に捕らわれて、まるで今にも暗い暗い水底に引き込まれて落ちていこうとしているかのような。
マルセイユの胸中に前触れもなくよぎる、そんな不安感と共に浮かんだ言葉。
‥‥夏?
一見、この深い地底にある湖とは何の関連性もないようにも思えるその単語は、彼に嫌な予感をもたらした。
湖。ボート。‥‥夏。
不気味に佇むボートの上のエルリーゼは、意識を凝らすと今の十四歳の彼女の姿よりも、ずっと幼く見えてくる。
それらが結びついて得られる解は、直感的にはひとつだけだ。
『まさか』という思いは、その直感がはずれでないことを悟ってしまったからこそ出たものなのかもしれない。
ほんのひとときの時間。
彼がこうして彼女の倒れた原因を探っている間も、彼女が導影術でイメージを視ていた間も。
そのわずかな間に、思考はめまぐるしく巡る。
エルリーゼはあることがあってからというもの、湖でボート遊びなどしたことがないはずだ。
“あること” の記憶はもちろん、それに繋がるような記憶も。
覚えているはずがない、彼女の中からそれらを消したのはこの自分なのだから。
覚えていないのなら‥‥なぜ、こんなイメージを?
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