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客足も落ち着いた、ある日の昼下がり。
とある駅前に併設された小さな郵便局。
遅めの昼休みを終えた局員、橋詰美里は貴重品の入った赤いミニバッグを机の引き出しに仕舞うと、窓口カウンターに陣取る中年の男へ声を掛けた。
「局長。ありがとうございました。今、戻りました」
「あ、お帰り」
彼女の声に椅子ごと振り向く、中年にしてはスッキリした体つきは局長の雪波。
老眼鏡の向こう側で、小さな目がにっこりと笑う。
そして、彼はその老眼鏡を外し、目をしょぼつかせながら席を立った。
「それじゃ昼からも宜しくっと、この時計電池切れそうだから替えといて」
「あーはい。分かりました。お疲れ様です」
横を通り過ぎる雪波を見送った美里は、ズレた座布団をちょいちょい整え、スルリとその身を滑らすように窓口につく。
そして、脇にある棚からクッキーのプリントがされた丸い缶を取り出すと、ボタン電池を探し始めた。
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