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だから異動して直ぐの頃は、こんな風に休憩から帰って来た際、 まだ人肌の温もりが残る椅子に、これが中年のおっちゃんじゃなくて、 同年代、いや五歳程度幅をもたせた、せめて三十代前半のお兄さんとかだったら良いのに。 なんて、心の中で盛大な溜め息をつきつつ、 午後の業務を始めるために窓口のネームプレートを入れ換えていたのは、言うまでもない。 ところがだ、 人間、慣れとは恐ろしいもので、一ヶ月、半年、一年と時が流れるにつれ、 "不満"は、"変な癒し"に変わるらしい。 "ときめき"も、"わくわく"も何もない既婚者だらけの職場は、常に心は平穏。 『○○課の誰それと、△△部長が熱愛』 だとか、 『同期の××くんが、二股掛けてるのがバレて修羅場だった』 とか、ゴシップ要素の強い話題で、「わー」「きゃー」なんて騒いでいたのは、最早遠い過去の記憶。 異動して一年と少し。 職場の話題と言えば、 『孫が初めて歩いた!』 とか、 『最近、血圧が高くて……』 なんて、色気も何もない、生活感たっぷりな、縁側のおじさん、おばさんが話してても違和感のない、ほのぼのした話ばかり。 初めは、そんなぬるい話題にげんなりしていた彼女も、今や、もう不満を覚えたりしていない。
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