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「あー、うちはまだ誰も結婚してないんで」 彼女には三十路の兄が居るが、付き合っている恋人さえ居ないらしい。 そんな兄の事を思ってか苦笑いを浮かべる彼女。 自分も兄に同じような心配をされている事は、勿論知る筈もない。 ただ、家族仲は良好なようだ。 「そーいえば、そうだったねぇ。じゃあ、今年も局長のお孫さん用だけかな。社員分は……」 頷きながら局長を振り返る棚部。 その体重のせいか、回転椅子がギギッと軋む。 「まあ、そういう事だね」 局長雪波は、マジックのキャップを閉めながら「どう?」なんて、手書きの販促ポップを披露する。 カラフルな文字と、メルヘンなサンタのイラストに彩られたそれには、 『お孫さんへのクリスマスサプライズ!早期割引あります♪』 なんて主張がされていた。 「流石局長!」と親指をグッと立てる棚部と、「かわいいです!」なんて小さく拍手する美里。
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