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人間が瞬時に抱く、対象物に対する一連のイメージというものは、往々にして酷く曖昧で原始的なのだろう。 目に映るものを記憶と照らし合わせ、その曖昧な輪郭の一致を実体まで運び上げる。 それらを吟味もせずに「認識」として食らい付くのだ。 それが実体と程遠いものであった場合、僕たちはそこで初めて己の咀嚼した物体の味を、食感を、驚きと自身の過信への苦々しさをもって体験するのだろう。 僕は、目の前に立ちニッコリと微笑む老婆を凝視しながら、咳によって上がってきた痰を無理矢理飲み込んだ。 不釣り合いに大きく見える銀歯と、その周りに縁取られた真っ赤な口紅、そしてランドセル。 老婆はまた1歩、こちらに歩み寄ると又同じ質問をした。
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