その唇で…

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渡部君は仏頂面のまま私を見下ろした。 「私が…私がこんな内気な性格だからいけないの!!早川さんに言われても、上手く言い返す事さえも出来なかった。 岳斗君にも…私の気持ちさえ素直に言えなくて甘えてた」 きちんと伝えなくちゃ… 「ほんとは私以外の女の子達と遊んで欲しくないし、毎日会話して…笑い会いたいのに、中々言えなくて…勝手に一人で苦しんで…私…」 言えた。 ずっと言いたくても言えなかった事を伝えることが出来た。 途端に涙が溢れ頬を伝わり湿らせた。 そして、ふわりと優しく私は包み込まれた。 「俺の方こそごめん。俺は、そんな焦れったくて初々しい紗智も好きだったから…まさか悩んでるなんて思わなくて」 「…んだよ!!結局俺は、損な役割かよ…」 「残念だけど…そうみたいだね。」 突然の声に私達は通路を見た。 「美和…と、賢ちゃん!!」 「遅いし、早川さん達も何だか行動が変だったし、心配で来ちゃったの。 ほら…フォローするつもりじゃないけど…渡部君だと賢介が二人いるみたいで何かね…」 「何だよ…それ、全くフォローになってねーぞ。 はぁー。俺がどんなに頑張っても戸塚は振り向かないだろうな…とは思っていたんだ。 負けだよ…俺の負け。 今回は引き下がってやるけど、次に戸塚が泣いてたり危険な目に合ったりしたら容赦なく奪うからな!!覚悟しとけよ」 渡部君は通り過ぎる時にチラッと目が合ったけど、そのまま行ってしまった。
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