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「はい、どうぞ」
「あ…、ありがとうございます」
ガチャ…と、先輩が開けてくれた後部座席のドアから、私は車内に乗り込む。
黒い革張りのシートに、ゴミ一つない車内。
ほのかに香る、芳香剤。
多忙な先輩がくつろいで過ごせる様に…そんな、事務所の気配りが感じられた。
「一緒に来たサブマネージャーは先に空港に向かったんだ。
20分くらいなら、大丈夫」
と言いながら、先輩は後部座席に一人分のスペースを開けて、腰を下ろす。
「……」
「……」
どうしよう。
ただ、会いたい一心で来ちゃったから…二人きりになると、何から話せばいいのか分からない…!
「…俺、愛也ちゃんに謝らないといけない事が…ある。
この間のデートの日、急に怒ったり、あんな所で力任せにキスしたり…理由も言わずにしばらく会う事やめようって言って、避けたりして…ごめんね」
「……」
真っすぐに自分の本音を口にする先輩に、私は耳を傾ける。
「泣かせたり、悩ませたり…。
俺と関わったら、愛也ちゃんにはそういう思いをさせ続けてしまう
って思ったから、距離を置いた。
ずるいよね。
ただ、あの時の俺は…、他に思いつかなかったんだ」
「……」
自然と、俯いてしまう。
どんな話か予想はしていたけれども……、実際に聞くと、やっぱりショックだ。
「…今は、そうして良かったって思うんだ」
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