6299人が本棚に入れています
本棚に追加
ヴー…。
ヴー…。
まるでタイムリミットを告げる様に、携帯の振動が車内に響く。
「…時間だ」
ポケットから、携帯を取り出した先輩は画面を確認して、はあ…と小さくため息をついた。
たぶん、サブマネージャーからの着信だ。
「…じゃあ、行ってくる」
「…はい」
そう言って、まだ火照った自分の体を実感しながら、私は少しだけはにかんで頷いた。
寂しいと思う気持ちは、もちろんあるけれど…先輩は貴重な時間を私と想いを伝え合う事、触れ合う事に注いでくれたから。
安心して…見送る事ができる。
『頑張って』って。
「見送りは、ここでいいよ」
後部座席を降りた先輩の後に続く私に向かい合い、ふわっと笑う。
…そっか。
今や、先輩は人気ファッション誌の表紙を飾る、有名モデル。
周りから、反対されていないとはいえ…公共の場に二人で出歩いたりする事は、まだ、控えるべき。
ただ、そうは言わない思いやりと優しさが先輩らしくて、私は自然と、抱きしめたくなった。
「…たぶん、同じ事考えてる」
最初のコメントを投稿しよう!