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「おはよう!」
「ッ!お、おはようございます」
麗香と出会った日の翌朝、現場に到着したタイミングが一緒だった須藤さんに挨拶した。
須藤さんは少しどもりながらも挨拶を交わしてくれた。
現場の敷地はかなり大きく、事務所と詰所が併設された仮設ハウスが遠い為に二人で並んで歩く。
須藤さんはどこか緊張した面持ちに見えるが俺は気にしない。
気にする意味がなかった。
だから、俺は今日からごくごく自然体で須藤さんとも後輩達とも接する事が出来るだろう。
「な、なんか今日の岡崎さん、機嫌が良さそうですね?」
「そう?あー、確かに悩み事が解決したからな」
「その悩み事って訊いてもいいんですかね?」
「ん、対人関係ってヤツかな?でもな、悩む必要はなかったみたい。俺なんかきっと取るに足りない奴なんだ、不釣り合いというかな。諦めた事で清々しい気分だ」
否定していた感情を受け入れてしまった為に、昨日は自棄酒を呑みに行ってしまった。
けど、そこで俺は貴重な話を聞けた。
本人にとっては苦しくも虚しい話だったが、それは俺の想いを鎮めるのに充分だった。
どれだけ努力しようとも越えられない壁。
変えられない過去。
選べない人生。
それは人を好きになる気持ちすら粉々に砕いてしまう。
麗子は信じていたのに、やっと掴んだ幸せだったのに……
親が招いた不幸で人生を狂わされ、大人になっても付き纏うなんて酷すぎる。
麗香の旦那は超有名私立大学を卒業後、数年の会社勤めを経て独立。
その際、旦那を支え続けた麗香は目出度く結婚したのだそうだが、会社が大きくなると付き合いも増え嫁の出番が増加。
となって来て学歴というものが麗香を苦しめた。
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