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桜が咲き乱れ、淡い春の一時が過ぎて数日。
新緑の瑞々しい青さで街路樹が揺れる頃、彼女がやって来た。
現場のスタートは朝礼から。
その朝礼の時に彼女は現れたのだ。小柄で髪を綺麗なダークブラウンに染めて薄く化粧した顔は可愛らしく思わず見入ってしまうほど。
季節的に考えて大学を卒業して間もないフレッシュマンといったところか。
多分、ゼネコンの研修を終えたばかりの子が今日から配属になったんだろうなぁと考えていると、後ろから後輩の佐藤が話し掛けて来た。
「岡崎さん、あの女の監督めっちゃ可愛くないですか?」
「ん?確かになぁ、現場で働くには勿体無いかな?」
「ですよね!けどめっちゃテンション上がるんすけど!あの子の前なら二倍は頑張れそうッス!」
「バカ、それならいつも二倍の力見せろよ」
俺が建築現場で職長として任されているこの作業所に、近年では増えたといってもまだまだ少い女性の現場監督がやって来たのである。
当然のことながら、女っ気のほとんどない建築現場に現れた女監督に、引き連れている職人のテンションが否応なしに上がっていた。
佐藤の気持ちも分からなくはない。
朝礼の挨拶で最後に所長が壇上に上がり、新人の女監督の紹介をする。
「えー、皆さん。今日からウチの作業所に新しく監督が入ることになりました。須藤といいます、まだ一年目なので皆さんに迷惑を掛けるかもしれませんが、宜しくしてやって下さい」
そう言葉を結ぶとマイクを須藤という新人の監督に手渡し壇上を後にした。
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