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「あー、こっちこそヨロシクね、須藤さん。俺はこの通り岡崎っていうから」 俺はヘルメットの前後に貼られた名前のシールを指差し笑顔を向けた。それでも緊張は取れないみたいで、固い表情でコクコクと首を縦にするだけで声が出てこない。 これは慣れるのに相当時間が掛かるな、と俺はこの時心底思った。 男ばかりで粗暴な輩が多い建設現場でこの娘はやっていけるんだろうか? ま、そんな世界へ自ら飛び込んで来るくらいだから大丈夫なんだろうけどさ…… 「そしたら現場の説明でもしようか、大学で何を勉強してくるのかは今までの監督さんとの付き合いで分かってるつもりだし、資材の名前とか知らないだろうと思う物を説明するな。オッケー?」 「はい!お、お願いします!」 胸ポケットから真新しい手帳を取り出してペンを構える須藤さん、元気のいい返事をくれたけど力み過ぎ。 緊張はまだまだ取れなそうだけど、やる気を見る限り大丈夫そうだ。 少し安堵した俺は須藤さんを案内すべく二人で現場内へと向う。今までになかった新人女監督への説明は、意外と俺を緊張させる物だった。 須藤さん、距離が近いんだよねー。 説明する時に上目遣いで距離を詰めて来るものだから、監督としてより女として認識してしまいそうになる。 悪気はないし気付いてないんだろうけど、至近距離での上目遣いは止めて欲しい。 意外と目力が強いよ、君。
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