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須藤さんが来て3日目。 この日もいつもと同じように一日が始まる。 その日の作業は、建物の外側で仕事をする為の外部足場のせり上げ。 謂わば鳶仕事のメインの一つ、どれだけ無駄なく速く綺麗に仕事出来るかが俺達の見せ処で完全に須藤さんのことなど頭になく集中していた。 この日ばかりはほとんど休憩も取らずに仕事をしたのだが、僅かな一服の合間にも後輩達は須藤さんの姿を見つけて話し掛けている。 俺は長澤さんと少し打合わせすると、一服すべくみんなの輪に入ったのだが…… 「それじゃあ皆さん頑張って下さいね!」 「ええー、もういっちゃうのー?」 「仕事がありますから!では」 と、言って一番須藤さんに食い付きのいい佐藤の未練がましい言葉を放って、須藤さんはさっさと去ってしまった。 特にそのことに何も思わず煙草を吸おうとしたら、佐藤が噛み付いて来た。 「岡崎さん!岡崎さんのせいで須藤ちゃん行っちゃったじゃないッスか!」 「は?俺のせい?」 「そうッスよ!昨日岡崎さんが俺らに吼えたから須藤ちゃんびびってるンすよ!」 え、マジで?アレのせいってか!? さして気のしなかった昨日の一言、まさかアレが俺と須藤さんの距離を取ることになるとは。 しかし、俺に謝る気はやはり無い。 間違ったことは言ってなかったし、そもそも須藤さんに向けて掛けた言葉じゃないんだから気にする必要は無い筈だ。 だから、取り敢えず俺は佐藤の頭を小突く。 「痛ッ!何するんスか!?」 「適当なコト言ってんじゃねーよ!だいたいオメーがくだらねー話ばっかしてっから俺が怒らなきゃなんねーんだよ!いい加減にしろ、いくぞ!」 「……ハイ」 無駄にキツく当たってしまったような気もするが、コイツが悪い。 須藤さんと仲良く話しなんかするから――… って、俺は一体何を考えてんだ?馬鹿馬鹿しい。仕事に集中、仕事に集中。 結局、その日は須藤さんと話すこともなく仕事を終えた。 工程以上の進捗具合に、現場の所長や長澤さんは絶賛してくれたが、俺はどこか満足出来ないでいた。
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