第三章

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「なに言ってるのか分からないところもたくさんあったけど、私は、ジミドリが……葉月が話してくれて、凄く嬉しかった」  璃理が口を開く度に、澄みきった声が、葉月の心に溜まった嘘の破片を吹き飛ばしていく。 「格好いい嘘なんて要らない。私は、葉月の格好悪い本音が欲しかったのよ」  あやすような声に、震えていた葉月の肩から力が抜けた。葉月は固く瞑っていた目を開き、目の前で膝を抱えている左腕を見詰める。 「私はもう、葉月の弱さを知ったから。だから、もしもまた傷付いたり、悲しんだり、苦しかったりして泣きたいときは、私がこうして傍にいてあげる」  それで、鉄扇でぶん殴ってあげるわ。おどけるように続けて、璃理は声をあげて笑った。  流麗な調べが葉月の心を反響し、満たしていく。  葉月は一滴だけ涙を落とした。零れたのはその一滴だけで、それまで止めどなく溢れていた涙はピタリと出てこなくなった。不思議と、先程まで止まらなかった嗚咽も跡形なく消えている。  ――こいつに励まされるとか、最悪。ほんとかっこわるいな。  自嘲に口の端を歪めながらも、葉月の目には先程まで存在していなかった光が宿っていた。  葉月は口を開いて何かを言おうとし、 「…………」  結局、その言葉を飲み込んだ。目を瞑って体の力を抜いて、今まで以上に扉に体重を掛けて凭れる。 「…………」  そのまま暫く、二人は互いに背中を合わせて座り続けた。
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