第四章

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* 「言うことは?」  非の打ち所のない、完璧すぎて寒気がする微笑を浮かべた来宮カヲリに問われ、赤嶺勇太郎は目を逸らした。そして、一言。 「すみませんでした」 「あら、何がすみませんでした、なの?」  機械の駆動音が沈黙を埋めるオフィスの中、ニコニコと笑いと寒気を振り撒きながら、カヲリは一同を見回す。勇太郎、桃園あい、青野零士、硫黄明人、緑川葉月、黒埼璃理の計六名をその微笑で脅迫しながら、カヲリは再度問うた。 「言うことは、ないのかしら?」  一同は揃って目を逸らす。一様に表情を強張らせている。その額には冷や汗が流れていた。  カヲリはそんな一同を見て一際笑みを深くしたかと思うと―― 「……ぼっこぼこにしてきなさいって、言ったわよね?」  理知的な眼鏡の奥の、涼しげな瞳を怪しく光らせた。低い声色を聞き、一同はびくりと体を揺らす。 「あの絶対正義の間抜け共を、完膚なきまでに叩き潰してこい……そう、言ったわよね? レッド」 「ハイ」  勇太郎はぎこちなく返事をした。冷や汗をだらだらとかきながら、なるべくカヲリを刺激しないように、とこれまたぎこちなく笑う。しかし、その努力は無駄に終わった。 「なのにほとんど軽傷で済ませて捕縛してるし、敵の幹部に至っては打撲と骨にヒビが入ったのみ! しかも逃げられてる! どういうことなのよ!」  喋るにつれて語気を強めていき、遂には笑みが崩れ、カヲリは苛立ちを露に叫んだ。
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