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ごうごうと吹き荒ぶ烈風。
気流は渦巻き、煤けた空気が、そこに存在するだけで全身至るところを痛め付ける程強く吹き付けられる。
空は暗雲に覆われ、僅かな間隙から差し込む光が逆に不吉なそれを際立たせてしまっている。
鳴り響く轟雷に、極めつけは、恐ろしい程の質量を持つ水の散弾。雨は、暴風により最早凶器と成り果てていた。
そんな、常人なら決して立っている事すら出来ない悪天候の中。
「……皆、準備はいいか?」
彼等は、力強く立っていた。
礫土混じりの雨粒を全身余すところなく受けようとも、暴風に煽られようとも、力一杯雨で濡れた大地を踏みしめ、揺るぐことなく前を向き続ける。威風堂々たるその姿は見る者に感嘆を促し、まさに、只者ならぬオーラを醸し出している。
己の問い掛けに対して後背に立ち並ぶ仲間達から応、という答えを受け取った彼は、降り頻る雨をものともせずに天を仰いだ。
「……全ては、平和の為に」
雨音に溶けるようにして消えた呟き。掠れた、頼りのない声が意味するものは一体何なのか。籠められた想いは、一体何なのか。それは、当人の彼以外に知る由はない。
「皆、行くぞ。必ず、俺達で終わらせるんだ!」
彼の後ろにいる四人の戦士は、またしても応と声をあげる。血戦を前にしても、返事に陰りのあるものはいなかった。
それに気付いた彼は満足げに頷く。
未だ変わらず激しい雨脚、雲を彩り、鳴り響く雷鳴に、気を抜けば手足が千切り飛ばされてしまいそうな暴風は続いている。
だが、彼には確かにそれらが弱まって感じられた。それは、もしかしたら力強い仲間の存在に胸が温かな安堵で満たされているせいかもしれない――と非現実的な思考が過る。
彼は、己の思考に微笑を浮かべた。しかし、それも一瞬のこと。直ぐ様表情を引き締め、その鋭い相貌で対峙する敵を捉え、ぐっ、と手足に力を込める。
そして、
「正義の名の許に、いざ――ッ!!」
わずか五人ばかりの鬨の声があがった。
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