第一章

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「うる、さい……っ」  憎悪に満ちたその視線が再び己を捉える前に、と葉月は急いで男の無防備な首筋目掛けて片手直剣の柄を降り下ろした。  ぐにゃりと力が抜けた男からレイピアを引き抜き、つい、と振って血糊を払う。 「……ガキで悪かったな」  吐き捨てるようにして呟いた葉月は、眉間に皺を寄せながら辺りを睥睨した。  円形の噴水を中心として木製のベンチがあり、花壇があり、植木がある。普段ならば子供が遊び、若者が会談をし、老人が会談場所として利用し、穏やかな雰囲気に包まれるであろう煉瓦造りの広場は、今や血や弾痕、更には部分的な焼け焦げ水濡れといった超自然的な現象の跡で凄惨な姿となっていた。  その原因は、混戦真っ只中の二つの集団である。  先ず一つは、先程葉月に斬りかかってきた男と同じ格好をした、約二十人程の集団――絶対正義。  そしてもう一つは、赤、青、黄、桃、緑の五色を基調とした衣装に身を包み、人数的不利をものともせずに絶対正義を相手取っている五人組――葉月の所属している極致正義。  赤ならレッド、といった具合にメンバーは各々基調としている色で呼ばれており、緑を基調とした衣装に身を包む葉月はグリーンと呼ばれていた。 「……ふう」  葉月は、左手に携えるレイピアを右腰に取り付けられている鞘へとしまい、右手で片手直剣を遊ばせながら溜め息を吐いた。  睨むような視線の先には、広場のそこらに倒れ付している純白の全身タイツの連中と、僅かに残った敵を相手取っている仲間の姿がある。  ――今回の戦闘も、無事終わりそうだな。
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