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黒い手袋をした彼、もといクロスさんの手は少し暖かかった。
「クスッ、敬語なんか使わなくていいよ、普通に喋ってね。あと僕のことは、クロスでいいからね」
私の手を握り返し、花のように微笑みながら言う。
「で、でも‥‥‥」
いくらなんでも初対面の人間にタメ口は‥‥‥。
だが、初対面でブラッド達のことを呼び捨てにしていたことなどはちゃっかり忘れているアリスである。
「ダメだよ。ほかの国の時の住民にはそうしてたんでしょ?だったら僕にもそうしてよ。じゃないと、何も話さないよ?」
ニコニコしながら子供のようなことを言っているが、何故か彼の場合はホントにそうしそうだ、なぜか。
『ちょっと、クロス。その子困ってるわよ?あなたこの屋敷の主人でしょ?子供っぽいこと言わないの』
「屋敷?しゅ、主人!?」
ということは、ここは彼の領地なのだろうか?
(だとしたら、不法侵入じゃ‥‥)
それは、マズイ気づかなかったとは言えマズイ。
「ご、ごめんなさい!あなたの領地なんて知らなくて!私、今すぐでていくわ!」
「ええっ!大丈夫だよ心配しなくて!」
『そ、そうよ!第一、不法侵入だったらここで殺されてるわよ貴女』
慌てて花園から出ていこうとする私を、一人と一輪が必死に止める。
「で、でも私‥‥‥‥‥」
「心配しなくて大丈夫だよ。君は、はじかれたんでしょ?“引っ越し”で」
彼は、まるで全てわかってるかのように笑っている。
優しい人‥‥‥。
‥‥‥‥ん?彼は、今“引っ越し”といったか?
「ねえ、貴方、今“引っ越し”って言った?」
「あぁ、そうだよ“引っ越し”が起きたんだ。今ここは『スペードの国』になったんだ」
‥‥‥‥‥‥ウソ‥‥‥‥‥‥よね。
ずっとニコニコと笑ったままそう言った彼に、私は信じられない気持ちになった。
確かに今まで引っ越しはあった‥‥‥それによっていろいろな人物たちと別れた。
クローバーの国に変わり、時計塔と遊園地がなくなり、ユリウスとゴーランドがいなくなった。
たしかに、寂しくはなった。仲の良かった友人がいなくりさみしいと思った。
そのあと、すぐに引越しがありジョーカーの国になって、二人共戻ってきたが、それでも彼らと会えないあいだそれほど大きな悲しみには襲われなかった。
それは、大切な『彼ら』がいてくれたからだ。
大切な居場所があったからだ。
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