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コンコン。
控えめに聞こえるノックの音は
きっと彼女だろう。
ふわりと花が咲いたように笑う
彼女の顔を脳内で再生しながら
返事をした。
「どうぞ」
すると嫌になるくらい見慣れた
白いスライド式のドアから
ひょこりと顔が現れて
やはり記憶の中と同じく
ふわりと笑った。
「こんにちは精市」
「こんにちは」
いつも、挨拶は大事だと
言っている彼女。
「具合、どう?」
「うん。だいぶいいよ」
「そっか」
窓側の方のベッドの隣に
パイプイスを持ってきて座る。
「今日はケーキ買ってきたの」
「いつも悪いから
いいって言ってるのに…」
「遠慮しないでって!
…それに、私ができる
ことなんてお見舞いに来ること
ぐらいなんだから」
「俺はそれだけで充分だよ。
**に会えるだけでいい」
「ふふ、そう?」
また、嬉しそうにはにかむ。
しばらく話してから
彼女の顔に影が差した。
「…明日、だね」
「うん」
…そう、明日は俺の手術の日。
「まったく…。
そんな泣きそうな顔するなよ」
「だって…」
眉根を寄せ、口を引き結び
くしゃりと歪んだ顔。
それでもなお可愛く、
愛しいと思えるのは惚れた弱味
というやつだろうか?
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