あかい星にて

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「う~~、タンクタンク」  今パーツショップを目指して全力疾走している彼は、傭兵斡旋機関に所属するごく一般的な機動兵器乗り。強いて違うところを挙げるとすれば、重装甲と弾避けに興味があるってことぐらいかナ……。名前は《ムラクモ》。  いきなり矛盾しているようなナレーションだが、実際は何一つ矛盾していない。そう、いないんだよ。脈絡も、そして常識的展開もね……。  戦車を愛し、戦車に生き、戦車と共にブレークダウンする宿命を自らに課した彼が何を急いでいるのかと言うと、今日は最新型の戦車型脚部が入荷する日なのだ。  噂によると、脚部の両面に可動式のパイルが装備されており、コイツをブーストに合わせて繰り出せばどんなガチガチの重装タンクも昇天なさるらしい。  なに?表紙の説明にここはマルスアイザックと書いてあるだと?繰り返すがこの話に矛盾なんてない。ないったらないから勘弁して欲しい。 「おお!あったぜコイツだ!」  ショップのガラスに貼り付けられたチラシを、ショーウィンドウの玩具を羨望の眼差しで見つめる純真無垢な子供とはかけ離れた私欲丸出しのプリミティブデザイアな目で凝視する男。普通なら公的機関に通報寸前の蛮行だが、あえてそれをやる輩は居ない。  彼の胸元に付けられた身分証明は明らかに《レイヴン》を差しており、法律をガン無視する権利を有しているのだ。そのぶん法律から見捨てられているとかは、萎えるから言ってはならない。先天的戦闘適合者との約束だ。 「へ、変態だー!」  ところが、勇気ある輩がここに居た。彼の後方10m付近で上げられた叫び声に、ムラクモの首がグギギと悪魔に取り憑かれた子供のように旋回し、サベージビーストな眼光を向ける。  幾ら紳士――大事な事なので繰り返す、真性ジェントルメン――である彼であろうと、公然と変態呼ばわりされて黙っていられよう筈が無い。  果たして彼の取り得る策は何か?このサノバビッチをファックするマザーファッキンでグッフォユーグッフォミーなアイディアは何だろうか?彼のDetailedな戦術コンピュータは数瞬で答えを弾き出した。 「お前もレイヴンなら――AC一つで勝負せんかい!!」  AC使いは引かれ合う!失礼、単純に顔見知りなだけでした。
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