第1章

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. あれから五分もしないうちに、教室の中にはボクが一人だけとなった。 そんなボクの頭の中をぐるぐると回るのは、黒い光が告げた最後の言葉。 【この世界で死ねば、キミは当然自分の世界には戻れない。 この世界において誰かに頼っているようでは到底生き残れない。 この世界でも奇跡なんてものは願っているだけでは起きはしない。 この世界に運命なんてものは存在しない。 この世界にキミの知る常識は機能しない。 この世界で生き残りたければ常に考え、行動し続けるしかない。 この世界では平穏など幻想に過ぎない。 この世界は―――キミの想像が及ばないほどの絶望で満ちている】 いつの間にかこの教室の中に現れた黒い光は、そう言い終わった直後に突如姿を消した。 黒い光が存在したはずの場所に残っているのは光沢のある黒い石が一つだけ。 その他には何一つとして残ってはいなかった。 教室の中心にポツンと落ちている黒い石。 このあやふやな世界において、今のボクが唯一はっきりと認識できるもの。 それを拾い上げ、右手で思いっきり握りしめる。 何が起きてボクはここにいるのか。 どうやってこの世界から地球に帰ればいいのか。 ボクはどのようにしてこの世界で生き残っていくか。 次々と思い浮かぶ様々な疑問。 今のボクにはどの疑問に対しても、はっきりとした答えを出す事はできない。 だが……あの黒い光は最後にこれらの疑問に対するヒントを残してくれている。 この世界において地球での暮らしで培ってきた常識は意味を失い、誰かに頼っているようでは生き残る事が出来ない。 平穏が幻想に過ぎないという事は、日常的に命を脅かすような何かが存在するという事。 命の危険が限りなく少ない世界で過ごしてきたボクがこの世界で生き残るには、黒い光の言葉にもあるように常に考えて行動するしかない。 そして黒い光が最後に告げた言葉。 【この世界はキミの想像が及ばないほどの絶望で満ちている】 つまり生半可な気持ちで決めた覚悟では、この世界を満たす絶望には抗えない。 だからこそボクは死ぬ気で抗い、突き進むしかないのだ。 ―――たとえ進んだ先に絶望しか待っていないとしても。
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