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「おい」
「――!?」
なんだ女の子か。こんな森に、危ないな。
地面から飛び出た木の根に座って、一人の女の子がいた。全身が黒と白の目立たない服装。それとは対照的に髪の色だけは派手だった。金髪とは珍しい。
「お兄さん、あの館へ行くのかい?」
「まあね」
「やめときな。お兄さんじゃあ役不足だ」
「そうかも知れないけど、僕にだって生活がかかっているんだ」
大人になると、いろいろ大変なんだよ。
「ふーん。お兄さんがいいならいいけどさ。一応、忠告はしてあげる」
「忠告?」
「世の中にある良い話には、必ず裏があるもんだよ」
ふん。知ったようなことを。このくらいの子供は、すぐに自分の中だけで世界を作ってしまう。世の中そんなもんだ、なんて言葉もその内の一つだ。どうせこの森に入って迷ったんだろう。強がっているが、可哀想に。
「忠告ありがと、覚えておくよ。お嬢ちゃんも早く家にお帰り」
女の子のありがたい忠告のお礼に、僕はこの森の地図を彼女に手渡した。もう必要ないだろうし、館に辿り着けば帰り道くらいはなんとかなる。
「またな、ちびっ子」
「ああ、またな」
少女の隣を通って僕は歩き出した。その間、彼女はじっと僕を見ていた。もしかすると今振り向いても彼女は僕を見ているのかもしれない。
「精々頑張るんだな――お兄さん」
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