<ひじきな女>

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よくわからないといえば、男の気持ちもそうだ。 それまでは男は王様だったのだ。裸の。しかも白い靴下の。 白い靴下の王様はわたしを組み伏して、口の端を嗤いで歪め、どうだと言わんばかりにふんぞり返っていた。 その滑稽な姿を思いだし、わたしは苦笑した。 自分の首もとに、そっと手を添える。 絞められた箇所は、きっと薄っすらと赤らんでいるだろう。 すこし息が乱れているせいか、肌の表面がやや汗ばんでいる。 そのまま小首をかしげた。 なぜ、裸の王様は、最後まで貫徹しなかったのかしら。 悟った。 マイナスも、行き過ぎるとプラスに転化するという機微を理解できない子供に、わたしの心が充たされることはない。 思った。 皆、ほどほどなところで生きている。 あるいは少ない点数で、ちまちま計算し、ある基点を越えないよう息を圧し殺している。 感情が沸点にさしかかれば、ごく小規模な噴火を起こして自分より弱い者に暴力を用い、自己開示欲なるものを満たし、さもしい罪の意識などをもつ。 罪の意識も反転すれば快につうじるところがあって、だからこそあんなに早く爆ぜたのだろう。 抽んでた能力は、ある基点を越えたところに存在する。 能力的に劣った人は、精神どころか、肉体でさえうまくコントロールできない、といったところかしら。 ようするに、どうせ駄目な男であるならば、徹底して駄目であれ、ということだ。 どっちつかずの中途半端な男は、いつか嫌われる。 ところが世の中の大半は、どっちつかずを最終的に受けいれているようでもある。 本質的な『悪』を見つめるからこそ、対の概念である『善』もわかってくるのだと思うのだが。 だけど、悪を見つづけると内側から腐って爛れてしまうから、それが怖くて人は目を背けてしまうのだろう。 本当は、心のどこかで疎外感を抱えているくせに。
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