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もちろん、首を絞められて恍惚としている自分もどうかと思う。
かろうじて息をして天井を見あげ、お化けみたいな幾何学模様に醒めた昂りを覚えるなんて、自分でいうのもなんだけど、なんか哀しい。
あまりにも子供だましだ。
痛々しい。
けれど、わたしは直観していた。
ただ死にたいわけではない。
人は生きたいから、死にたいのではないか。
首を絞めながらわたしに圧しかかり、それなのに腰の引けた男の怯えた瞳。
本当は、男のほうが死にたかったのではないか。
わたしの虚ろな死を目前に、うろたえて身を翻すのも、脆弱な精神からきているというよりは、本能的に死と関係することを遺棄したからだろう。
だから生きたいわけだ。
生きたいけど、どこかで終わらせたいことを願っているから、わたしを代替として、つまり生贄として捧げようとした。
誰に。
おそらくは何かに。
もちろん男はそういった自分の行動に意味づけを見いだしていない。
性的な遊戯の発露からくるパターンめいた一連の行動が、自分の本当の目的が、わかっていない。
ましては言葉で説明できるはずもない。
ゆえに自死を選ばず、他人の、とりわけ身近な弱者にたいして負の感情のベクトルが向く。向いてしまう。
女、子供に向かってしまうわけだ。
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