<ひじきな女>

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ドメスティックバイオレンスで酷い目にあっている女の耳もとにそっと顔を寄せ、わたしはこう囁いてあげたい。 相手を○してあげなさい―― だって、相手は、本当は○にたいんだもの。 弱者に暴力を奮えるのは、徹底して自己受容ができている人か、あるいはその逆。 大半は後者ね。 人として自信がないから、相手をいたぶることでしか自分を得られないのよ。 イジメなんか、その典型でしょう。 虐める人も、それを見守る人も、皆、自分に自信がないの。 先生であるはずの大人でさえ、当たらず触らずじゃない。 ところが、虐められる人も、それに当てはまるのよ。 耳が痛いでしょう。 自己の確立、なんていえば誰もが真剣には耳を貸さないけれど、その言葉の本当の意味を知ろうとしないから、あちこちでささいな問題がおきるわけ。 けっきょくは個人の問題なのよ。 すべての問題は、あなた、ではなく、貫き通せない『わたし』の問題なの。 けれど、頭がわるい人たちは、他者と自己を同一化してしまっているから、ささいなことを複雑にしちゃっているわけね。 空気を読む、という罪がそこかしこに凝縮されてしまっているのだけれど。 ああ、お前の生贄になるなんて、まっぴら御免よ、ってところかしら。 理不尽に耐える必要なんて、まったくない。 だけど弱い人に捕まってしまう弱い人は、相手をなんとか充たそうとして自ら器になろうとする。 正確には、足掻く。 足掻いた末に裏切られる。 けれど、ぼんやりした頭は裏切られたことにすら気づかないのね。
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