<ひじきな女>

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ようやく踏ん切りをつけて別れてきたというのに、男はお腹のなかに居座って、女の気持ちにまるで頓着しない。 粘って、冷たくて、こういっては失礼かもしれないが、やはり気分のいいものではない。 すると会社帰りらしきスーツを着た中年の男性が、すれ違いざまに露骨な視線を向けてきたではないか。 自意識過剰だと思いつつ、わたしは焦ったように周囲に視線を泳がした。 蝉はどこで鳴いているのだろう。 近くに公園があったはずだ。 園内に植えられている木立で、きっと蝉は旺盛に自己主張しているのだろう。 さりげない顔をつくってそこに向かい、けれど公衆トイレを見つけると、駆けるようにして個室に閉じこもった。 息を詰めた。 なんだか座りこみたい気分だった。 けれど、公衆トイレの冷たい床に座りこんで膝を抱えるなんて、あまりにも惨めだ。
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