<ひじきな女>

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ふと、思いだす。 居酒屋などで、飲みすぎた若い女が便座を抱いてえずいている場面にぶつかるときがある。 酔ってもいないのに、ややそれに近い気持ちだった。 大げさかしら。 わたしも地面にへばりついて便座を、いや、何かを抱きしめたい。 そんな思いに一瞬だけ駆られ、わたしは頭をふった。 自分の感情を吟味すると、なるほどこれが裏寂しいという気分ではないかしら。 行くあてもなく、トイレの個室で独りきりで閉じこもるなんて、それ以外になんていうの。 自己憐憫にもほどがある。 すると狙いをすましたかのようにバックの底でスマートフォンが鳴った。 どきり、とした。 もちろん無視した。 もう男のところに戻ることもないだろう。 なにしろ、ひじきな女なのだから。
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