<農夫>

2/64
前へ
/91ページ
次へ
 里帰りで、小枝子は田舎の一本の道を歩いていた。 台風が北上して近づいているということもあって空は曇り、ひどく湿っている。 雨こそは降っていないが吹き荒れる風が頬にぶち当たる。 バスを降りて、山の斜面に沿って少しばかり歩く距離に、目指す実家がある。 荷物は両親に渡す手土産ぐらいのもので、あとはほとんど身軽といってよい。 身軽だが心は少し重い。 じつは里帰りをする前に、男友達とケンカをした。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加