<ひじきな女>

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それなのに浮気まで疑われ、普段はあまり感情を露わにしないわたしも、さすがにカチンときてしまった。 誰とやったって、おめえしかいねえだろうが、と思わず乱暴な男口調でかえしてしまったのだ。 日常においてそれとなく配慮していることには気づいてくれず、男という生き物はこういった小さな茶番にねちねちとしつこく絡んでくるのだ。 恥ずかしさと悔しさ、いわれなき誤解までされてわたしは涙がでそうになった。 けれど嫉妬で硬直した男に、わたしの気持ちは通じない。 いきなり頬を叩かれた。 加減が一切ない、強烈な平手だった。 真横に吹き飛んだ、というのは大げさだけど、それぐらいの勢いで倒れるように突っ伏した。 耳の奥がきいん、となり、わたしはしばらく呆けて、畳みの縫い目に視線をおとしていた。 不思議なことに、いつもより畳みの目が鮮明に映っているように思えた。 何年も張り替えをしていない、いつもの黄味がかかった毛羽立った畳みとは違う。 なんとなく指先でなぞっていた。 俺の話しを聞いてるのか―― 天から声が降ってきて、わたしは我にかえった。 じんじんする頬に掌を当て、見おろす男を睨みつけた。 なにか喋っているけど、言葉はほとんどわたしの耳もとを素通りしていく。 それでも聴いているふりをして神妙な顔をつくる。 ああ、健気なわたし。
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