<ひじきな女>

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わたしは男から顔をそむけ、背後の天井に虚ろな視線を投げた。 天井は煙草のヤニで染まりきって、もとが何色だったのか判然としない。 黄ばみを越えて、いまや茶色といったほうが正しい気がする。 見た目と匂いが気になり、重層などを駆使して掃除したこともあるのだが、汚れが固着してしまい手がつけられない。 ゆえに諦めた。 その薄汚い天井だが。 天井の壁紙の細かい模様が、ゆっくりと輪郭を帯びはじめた。 表面の凹凸さえはっきりと感知できて、しかも柔らかく発光してきている。 ちりめんじみた壁紙の模様が、霞む視界をさえぎってのしかかってくる。 蛍光灯の白い光と同化し、ちりめん模様がくっきりとうかびあがり、わたしに迫ってくる。 いや、もしかしたら、わたしが天井に向かって浮上しているのかもしれない。 世界が白くなりかけている。 光りが降ってくる。 純白のちりめんじみた幾何学模様も降りてくる。 ああ、そんな錯覚を覚えるほどに、わたしは酸欠で息も絶えだえなのであった。 わたしは意識の混濁が自覚できるほどに、それとなく天井の隅からわたしを俯瞰して、いや醒めた目で自分を見おろしている。 薄汚い天井に張りついているわたしは男に圧しかかれている己の変化の兆し、それを見逃さない。 わたしは今、諦めかけているのではないか。 何に。
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