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死神
「ハッ!…グッ!…ハァァッ!!」
夜も更けた寒空の下。
走る。
とにかく走る。
もつれそうになる足。
倒れそうに傾く体を気合いで立て直し、なおも足を動かす。
まだ寒い春の夜の風を切り裂きつつ、金髪頭のいかにもチャラチャラした格好の青年はふと考えてみる。
ーーー例えば運動会の徒競走で、これほどまでに全力で走ったことはあっただろうか?
これほどまでに、死に物狂いで走ったことはあっただろうか?
ただただ勝利を欲し、走ったことはあっただろうか?
恐らく、いや確実に、ない。
ただの一度もない。
例え徒競走で1位になれなくとも、2位、3位などの結果が返ってくるだけ。
ただそれだけ。
別に自分の足に絶対の自信を持っていたわけでもないし、その一瞬と言える行為に全てを懸けていたわけでもない。
故に、心の片隅で怠慢が生まれ、どこかではきっと手を抜いていたのだろう。
しかし、今は状況が激しく違い過ぎる。
彼は命を懸けて走っている。
走らなければ、死ぬ。
だから、文字通り狂ったように走る。
命という名の勝利を掴むために走る。
俺もこんなに速く走れたのか、と自分でも驚くくらい速く。
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