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まるで、その存在が最初から無かったかのように。
流した血液さえ、痕跡を残さず跡形もなく消えた。
少年は横目で、孤立した青年を見る。
先ほどの戦闘ですっかり腰が抜けてしまった青年は、思わずといった感じに尻餅をつく。
「あっ…あぁぁぁ、たっ…頼む!見逃してくれぇ! か、金ならある!銀行で盗んだやつだ!
欲しいのなら、半分くらいなら…!」
形振り構わず、地面に這いつくばって情けない声で命乞いをする青年。
その、あまりにも痛ましい光景に、目をあてることすらままならない。
「…心配しなくても、アンタに直接どうこうしようなんて気はないよ」
少年は、我関せずと言いたげにくるりと背を向けた。
ーーー助かった…のか?
青年は、伏し目がちにリクを見た。
先ほどまでリクが持っていた鎌は、いつの間にか消えている。
少なくとも、彼女も同様に危害を加える気はなさそうだった。
そこでようやく実感する。
ああ、自分は助かったのだと。
自然と、涙が溢れてこぼれ落ちた。
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