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無表情な仮面の下からの低い声に、彼は待ちに待った、深い安堵のため息を吐き捨てる。
と同時、氷のように冷えきった心臓が、熱を取り戻した。
自らの生命の鼓動を実感する。
逃げ切った。
助かったのだ。
しばらくぶりに、足の動きを緩める。
この世に生まれてから今の今まで、ずっと走り続けていたのでないか?と思えるくらい走った。
故に随分と運動不足だった足は、まるで古びたガラクタのようにコタコタな状態である。
ガラクタ同様油でも注せればいいのだが、生身の肉体ではそうもいかない。
明日は確実に筋肉痛だろうな、と青年は苦笑する。
「ふいぃぃぃッ!ちょい休憩しよう。この先に公園がある。
確か自販機があったはずだけど…」
「ビールを所望するぞ。我が主」
「あー?ハードドリンクは家に帰ってからだ。
今はソフトドリンクで我慢しろ」
青年の言葉に、薄汚れたローブが肩を竦める。
公園の中央に設置されている時計台が午前4時を差している。
当然、公園には誰もいなかった。
「ほれ」
隅に設置してある自販機で適当に買ったスポーツドリンクを、薄汚れたローブに投げて渡す。
自分用に買ったもう一本のスポーツドリンクを拾い上げ、青年は肝心なことを思い出す。
「そうだ、金!
お前、金はちゃんと持って来てるよな!?落としたりしてないか!?」
「抜かりはない」
薄汚れたローブは、背負っていた膨らみを帯びた布袋を乱暴な動作で地面に置く。
青年は慌てて駆け寄ると、すかさず布袋の中を確認する。
中には、数え切れないほどの札束がごっそりと入っていた。
青年は、再び安堵のため息を漏らす。
「しかし主よ。
こんな大金を手にしてどうするというのだ?」
「あ?」
お前には関係ない。
そう言いかけて、彼は頭を振る。
目の前の薄汚れたローブは、仮にも彼の目的を達成するための手助けをしてくれたのだ。
事実、薄汚れたローブがいなければ、これほどの大金を手にすることはなかっただろう。
ならば、これくらいの問いに答えてやるのが礼儀というものだ。
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