死神

4/14
前へ
/30ページ
次へ
無表情な仮面の下からの低い声に、彼は待ちに待った、深い安堵のため息を吐き捨てる。 と同時、氷のように冷えきった心臓が、熱を取り戻した。 自らの生命の鼓動を実感する。 逃げ切った。 助かったのだ。 しばらくぶりに、足の動きを緩める。 この世に生まれてから今の今まで、ずっと走り続けていたのでないか?と思えるくらい走った。 故に随分と運動不足だった足は、まるで古びたガラクタのようにコタコタな状態である。 ガラクタ同様油でも注せればいいのだが、生身の肉体ではそうもいかない。 明日は確実に筋肉痛だろうな、と青年は苦笑する。 「ふいぃぃぃッ!ちょい休憩しよう。この先に公園がある。 確か自販機があったはずだけど…」 「ビールを所望するぞ。我が主」 「あー?ハードドリンクは家に帰ってからだ。 今はソフトドリンクで我慢しろ」 青年の言葉に、薄汚れたローブが肩を竦める。 公園の中央に設置されている時計台が午前4時を差している。 当然、公園には誰もいなかった。 「ほれ」 隅に設置してある自販機で適当に買ったスポーツドリンクを、薄汚れたローブに投げて渡す。 自分用に買ったもう一本のスポーツドリンクを拾い上げ、青年は肝心なことを思い出す。 「そうだ、金! お前、金はちゃんと持って来てるよな!?落としたりしてないか!?」 「抜かりはない」 薄汚れたローブは、背負っていた膨らみを帯びた布袋を乱暴な動作で地面に置く。 青年は慌てて駆け寄ると、すかさず布袋の中を確認する。 中には、数え切れないほどの札束がごっそりと入っていた。 青年は、再び安堵のため息を漏らす。 「しかし主よ。 こんな大金を手にしてどうするというのだ?」 「あ?」 お前には関係ない。 そう言いかけて、彼は頭を振る。 目の前の薄汚れたローブは、仮にも彼の目的を達成するための手助けをしてくれたのだ。 事実、薄汚れたローブがいなければ、これほどの大金を手にすることはなかっただろう。 ならば、これくらいの問いに答えてやるのが礼儀というものだ。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加