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そう言って彼が視線を移すと、薄汚れたローブは、何処かを見つめたまま体を震わせていた。
「……おい?」
一瞬、寒いのだろうか?とも思ったが、自分の考えが間違っていることを察知する。
ーーこいつは寒さで震えているんじゃない…。
骸骨の仮面の下にある表情こそ見えないものの、彼にはわかった。
ーー絶望で震えているんだ……。
恐らく、仮面の下にある顔は、絶望を孕んだ表情で歪んでいるに違いない。
「……まさか!?」
そう感じた矢先、彼は薄汚れたローブの視線の先に目をやった。
同時に、彼自身も体を震わせることとなる。
もちろん、絶望で。
「鬼ごっこはお仕舞いか?」
ーーーそこに立っていたのは、黒い学生服を着た少年。
街灯の薄明かりで照らされているのでよくは見えないものの、その顔立ちはまだどこか幼さが残っており、何の変てつもない何処にでもいそうな学生。
そしてその少年の隣。
そこに、異形の何かが立っていた。
端々が千切れた漆黒のローブ。
深々と被ったフードから露になる、
骸骨を模したような無骨な仮面。
その双眸は、目の前の獲物を狙う肉食獣のように眼光鋭く。
フードからはみ出るほど長く、流麗な髪は月よりも美しく煌めく。
そしてその小さな手に持つのは、自身の華奢な身の丈よりも裕に大きく、刃の部分が禍々しく歪んでいる巨大な鎌ーーー。
格好こそ薄汚れたローブと共通する点は幾つかあるにはある。
が、あまりにも違い過ぎるのだ。
そう、格が。
目の前にいるのは、まさに絶望を体現したかのような化け物。
まともにやり合おうなんて考えは微塵も浮かんでこない。
やり合ったところで、勝ち目がないのは明白。
ならば、ただただ逃げるしかない。
情けなく、狩人から逃げる獲物のように。
しかし、それすらも出来ないのだ。
体は未だかつてないほどの恐怖に怯え、足は完全に竦んでいる。
まさに、『狩るものと狩られるもの』の様相がここにあった。
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